アイメイトと歩く全盲の私が選ぶ靴底の話/「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤 亜紗(著)

新しいキャンバススニーカーをはいて、アイメイトと1時間ほど歩く。
歩きながらチェックしたのは、
新しいスニーカーの底の感覚なんだけど、
このジャックパーセルは路面の情報が「見える」ので合格。

目の見えない私にとって、足裏はセンサーだ。
このアスファルトに小石と砂の混じった箇所を過ぎると、まもなく信号だ。
石畳の次に土の道、
アイメイトが横断歩道のコーナーで止まったら道路を渡って右、
点字ブロックがある歩道の先は駅。
このようにして、路面の変化を地図にしているのであります。
なので、足裏の触覚を邪魔しない靴底が好ましく、
私はローテクなスニーカーを選んでいる。

ナイキのエアマックス系のハイテクなスニーカーは衝撃を吸収するけど、
肝心の感覚も吸収しちゃうし、
トレッキングやハイキングシューズに使われているビブラムなどの靴底は、
その硬さゆえに、触覚としての繊細さは欠ける。
大工さんや、足場を組む職人さんが、
薄くしなやかな地下足袋をはいているのは、
バランスをとりやすいのと、
足元を見なくても触覚で分かるから。

ということで、地下足袋チックなローテクスニーカーがいい。
適度に柔らかな薄底、
そして、底面が全体に平べったい。これ重要。
接地面が大きければ大きいほど、センサー部が広くなるから。

足元を見ずに作業する(しかも不安定な場所で)といえば、
揺れる(しかも濡れている)デッキで作業するヨットマンや、
スケートボードの上でアクロバティックな技をくりだすスケーターを連想するけど、
デッキシューズやスケーターシューズの底は、ベタっと平たいではないですか。
滑らないというのもあるけど、
ノールッキングでボードのどこに足がかかっているかわかるから、
フラットソールのバンズのスニーカーを選ぶスケーターは多いそう。

デッキシューズやスケーターシューズのソールは昔ながらのゴム底で、
この昔ながらのゴム底製法(バルカナイズド製法)のスニーカーを、
見た目の古めかしさとかシンプルさから、
長年にわたり、私は愛してやまなかったのだけれども、
芽が見えなくなってから、こんなに役にたつとは。
余談ですが、ナイキのコルテッツや、アディダスのカントリーなどはローテクスニーカーに分類されますが、
バルカナイズド製法ではありません。コルテッツもカントリーも大好きなんだけどね。

さて、昔ながらのゴム底といえば、
おなじみコンバースのオールスター。
底が薄く平べったくていいけど、キャンバスモデルのクッション性は皆無。
レザーモデルのオールスターには、フカフカなカップインソールが標準装備されていて、
秋冬の靴は一生、オールスターレザーだと決めているんだけど、
ペラペラなインソールのキャンバスモデルのオールスターは、五十路の私にはつらくなってきた。
なので、改良版のキャンバスオールスターの軽量モデルを3年はいていた。
底がゴムではなくEVAだから、クッション性も最高で軽くて柔らかくて楽ではあるけど、
楽なのと、楽しいということは別なように、
次もコレにするかといえば、ちょっと違うかも…。

ということで、春夏のキャンバススニーカー買い替え時を機に選んだのが、
コンバースのジャックパーセルだったのでした。
同じくバルカナイズド製法のスペルガ2750と迷ったけど、
いいですよ、ジャックパーセル!
インソールがキャンバスオールスターより格段によいので、ごむ底の割りにはきやすい。
適度な柔らかさと屈曲性、何より底面が全体に平べったい。
宙に放り投げたら必ず底から着地するんじゃないか、
というくらいソールが重いですが、
はいてしまえば不思議と重さを感じない。
どれだけいらっしゃるか分かりませんが、
ニーズに合う方におすすめいたします。

さて、今回ご紹介するのは、
全盲の私が音声図書で読んで目からうろこが落ちた本。
この本がユニークなのは、
福祉的な切り口ではなく、感動を売り物にもしてなくて、
極上の身体論になっていること。
目が見えなくなって新たに獲得する身体の感覚と使い方って?
使われなくなった視覚脳の新たな仕事は?
いやぁ、エキサイティングに面白い本!

目が見えない人が、どう世界を「見て」いるのか。
見えないのに見るとは、これ如何に?
たしかに、私は足裏から感じ、世界を見ている。

***
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」
伊藤 亜紗(著)
光文社新書/2015年

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