母が小学校に入学したときのこと。
入学のお祝いと言えば下駄だったのだそう。カランコロンの木下駄である。
卓袱台の上に、お祝いの新品の下駄がいくつも並べてあって、
それはそれは嬉しかったのだとか。
すぐに履ける子ども下駄、もうすこし足が大きくなってから履ける下駄と、
小さいのや大きいのが卓袱台に並んでいたそうだ。
どうして下駄なの?と聞いたら、
うーん、いくつあってもいいからじゃないかなー、の返事が。
それに、下駄だったら手に入れやすかったと思うよ、と言った。
母の実家は宮城の蔵王の麓である。
玄関を出たら江戸時代の旧街道で、
昔は馬車や荷車の往来で賑やかだったそうな。
へー、あの静かで広くもない道がねぇー。
私はふと思いだした。
母の実家から路に一歩出たら、足元にポォーと光る何かがある。
何でもない側溝に蛍がいたのだ。
その光が灯るテンポは、岐阜の山奥で見た蛍よりもゆっくりだった。