月別アーカイブ: 2018年5月

キャンバスの裏側

人生を変えるような出会いが誰にでもある。
写真家の友人にとってそれは、
「変なおじさん」(志村じゃなくて)だった。
「変なおじさん」に出会って、
それまで見ていた世界が変わったと言う。

そして素敵なのは、
宝物のような経験は、
宝物のごとく誰かに伝承せずにはいられないってこと。
(なので、今日も友人のブログからシェアします)

****ここから転載

『キャンバスの裏側』
学生の時、世界的に有名なモダンアートのアーティストの先生の授業を受ける機会がありました。先輩たちから「変なおじさん」と聞いていましたが、たとえばクラスメイトが白いキャンバスに何かを貼り付けた作品を見せにいくと、手にとるや否やくるっと裏返して「きれいですね!」とか、廊下に落ちてる雑巾が乾いて固まってるのを見て「美しいですね。誰の作品ですか?」とか、毎回「ええ~!?」なことばかりでした。でも先輩が「あれは、私たちのものの見方を変えるためのパフォーマンスなのよ」と解説してくださって、なるほどな~と思ったのでした。

毎週何らかの作品を作って持っていくのですが、次は「キャンバスの裏側まで見られることを予測して作品を作ろう。」とか、作っていかなければ、朝から必死で壁の染みとか雑巾が落ちてないか探したり、学生たちには知恵がついてきます。一学期終わる頃には、「これ面白いんじゃない?」とゴミ捨て場から何かわけのわからないものを拾ってきて見せ合ったりも。

その経験は私にとって一生の財産になりました。キャンバスの裏の可能性は、私の見える世界を倍にしました。どこに可能性があるかは、自分の見方で広げることができると知ったのです。

その数年後、千利休が朝鮮半島の名もない陶工が作ったご飯茶碗を茶会に使ったエピソードを知り、利休もキャンバスの裏側を知ってる人なんだと思いました。

年に何回か写真教室や高校で写真の授業をさせていただいていますが、「可能性を全て試してみてください。」とお話しします。フィルムのカメラだったらさすがにオススメできませんが、ありがたいことに時代はデジタルなので、いくらでも撮って消せます。どこに美しさや面白さがあるかわからないので、「どこからも撮ってください。被写体の周り球体に可能性があると思って。」と。特に人物ではカメラの位置が数センチ上下するだけで表情のとらえ方は変わります。

もしお子さんやご家族を撮るときいつも同じ目線から撮っているとしたら、それはとてももったいないことです。全ての可能性を試してみてくださいね。またいつもと違った表情や雰囲気に出会えるはずですから。

****転載ここまで

心で撮る写真

写真家の友人から、写真にまつわる話を聴くと、
たくさんの発見と気づきがある。

友人は写真教室や学校の講師など、レクチャーする仕事もしている。
写真を撮る技術はもちろんだけれども、
それ以上に教えたい、本当のテーマは、
「視点や見方で世界が変わること」、なのだとか。

こんな風に教えるそうだ。
「360度ぐるりの球体に可能性があると思ってください。
被写体をいつもの角度や距離からではなく、
いろんな角度からシャッターを押してみてください。
とくに人物は、
数センチカメラの位地を上下するだけで、表情の印象が変わります。
馴染みの家族でも、はじめて会った人みたいに、
きゃー、誰? かっこいい!となりますよ。
だから、どんどんシャッターを押してみてください、
世界の見方が変わりますから」、と。

そして、プロのプロたる由縁は、
その中から一枚を選ぶ「選球眼」なんだな、と私は思う。
友人はアマチュアの方の写真展のプロデュースもしているのだけれども、
渡された玉石混交の厖大な写真の中から、
光る玉を見つけ出し磨く能力には驚かせられる。
それは、どんな分野の「次元の違う人」がそうだと思うのだけど、
これ素敵!と感動する、心の繊細なセンサーと、
高い技術と客観的な眼を持ち合わせているということ。
うわー、どっちかだけじゃなくて、どっちも高度に、なんだな。
じゃあ、まずどっちで?と友人にたずねたら、
「エモーショナル」と返事が返ってきたのでした。

以下はとてもいい話なので、友人のブログからシェアします。

***ここから転載
『心で撮る写真』

「わたし、写真展がしたいんです。手伝ってください。」と鳴瀧咲子さんから突然お電話をいただいて、半分くらいお断りしようという気持ちでお会いしに行ったんですが、初めて会った鳴瀧さんその笑顔を見たとたん「あ、これは断れないわ。」と思いました。その素敵な笑顔にノックアウトされてしまったんです。

「どんなカメラで撮ったんですか?」「これです!」と出してこられたのは、新しくなさそうなコンパクトカメラ。そして鳴瀧さんはパソコンが使えないので、膨大な枚数の写真は写真屋さんで入れてもらったCDに、家族写真もグルメ写真も法事の写真も、すべて一緒に入っていました。なによりカメラの設定もわからないのでただオートのままシャッターを押しただけ。「これで写真展していいものか?」と私も思いました。でも膨大な写真の中に宝は眠っていました。

今年70歳で車の免許を返納している鳴瀧さんの日常の行動範囲は広くはない。でも歩ける範囲を精一杯歩いて、その中でささやかな非日常を見つけようとしてらっしゃる。川原に咲く菜の花。木立の中のお祭りの屋台。小さなお宮さんで見つけたお百度石etc。ピュアに撮った写真だからこそ、その一瞬に何に感動してシャッターを押そうとしたのかが伝わってきます。鳴瀧さんの笑顔まんまのとても愛らしい写真たち。そして地元の私たちにはキュッと胸をつかまれる景色がたくさん。

写真はたとえ同じカメラで同じ位置から同じものを撮ったとしても撮る人で変わります。おそらくなにを、どこを見てるか、気持ちのレベルでの個人差が写真変えるんです。だから面白い。
私は撮影会や友人たちとの撮影旅行でそのことを教えてもらいました。写真はカメラで撮るけどカメラが撮るのではないんです。

写真展はおかげさまで初日からたくさんの人に見ていただいたようです。「”これで撮ったの!”とコンパクトカメラを見せるとみんなびっくりしてらしたわ。」と昨夜楽しそうに電話で話してらしたので、「明日からは”そのカメラはお手伝いで、ほんとは私の心が撮ったのよ。”って言ってくださいね。」と伝えました。

そんな鳴瀧咲子さんの写真展は6月5日(火)まで。カフェ碧(あお)さんが、なんとも昭和のお家ですがとても落ち着きます。ご来場をお待ちしています。
****転載ここまで

Sugarcublog

http://sugarcublog.jugem.jp/

忘れないでいる人

『大人ははじめは子どもだった。
しかしそれを、
おぼえている大人は、いくらもいない。』
サン・テグジュペリの「星の王子様」の前書きにある、
とても有名なフレーズだ。

この一文をはじめて読んだ時、
私はそこそこ大人になっていたのだけれども、
「自分が子どもだったこと、忘れちゃう人っているの?」と
ひどく不思議に思ったものだった。
記憶喪失じゃあるまいし、
それに、子どもみたいな大人って、
私もだけど、たくさんいるような気がするし
とまあ、釈然としなかったのだった。

「子どもっぽい大人」と、
「子どもだったことを覚えている大人」は、
意味が違うんだと、随分後に分かったのだ。

「子どもだったことを憶えている」とは、
今は、「強くて大きい存在」になって、その自覚もあるけれど、
かつては自分が「か弱い存在」だったことも、シッカと覚えていて、
自分よりか弱い存在に、赤子の手をひねるような真似はしないってこと。
サン・テグジュペリが星の王子様を書いたのは大戦中だ。

か弱い存在って、
年齢や性別や立場だけじゃなくて、
それに、人だけでもないよな…。
「たしかに、いくらもいないかも…。」と、
ドキリとしたのでした。

本気の人

明日は忌野清志郎の命日だ。
私は昔、忌野清志郎のことを良く思っていなかった。
見た目もだけど、
あのフレーズ「愛しあってるかい?」とか、
なんだか軽薄だなぁと思っていた。

ようは、ただの食わず嫌いだったのだけれども、
ある時、映像でステージを見て、
ちゃんと歌を聴いたら、
どうしようもなく言葉が身体に染み入ってきた。
愛とか平和とか言っているけど、
この人は本気なんだ…、と思い知り、
感動を通り越して、
へなへなへなってなったのでした。
映画館でエンドロールが終わっても椅子から立てない、
そんな感じ。

その後に、
普段の清志郎は、穏やかで物静か、
口数も少なく、小さな声で恥ずかしそうに喋る、
とてもシャイな人だと知った。
親交の深い坂本龍一が清志郎にはじめて会ったとき、
あまりにシャイなので、どう接したらいいのか困惑した、というほど。
「きよしちゃん」 「アッコちゃん」と、
互いを呼び合うような古くからの仲良しの矢野顕子も、
いつまでも、静かな少年のような人、というくらい。

インタビューで「…。」だらけなのに、
じゃあ、歌で言ってみてとなると、
ギターを抱え話すように歌う、というエピソードが好きだ。
清志郎の音楽や絵や文筆は、
「言葉そのもの」なのだろう。
それは、とても素敵なことだな、と思う。

矢野顕子の名曲「ひとつだけ」を、
清志郎が歌うと、より言葉が胸に迫ってくる。
そして、清志郎がいなくなってからは、
歌詞の「離れている時でも、ボクのことを忘れないでいてほしいよ」や、
「悲しい気分のときも、ボクのことをすぐに呼び出しておくれよ」が、
あの世から言っているようで、
「本気でそうなんじゃないか?」と、
私は思えるのでした。

ひとつた?け / 矢野顕子・忌野清志郎 – YouTube