君は天然色

りんごの季節になると大瀧詠一を思い出す。
大瀧さんは解離性動脈瘤で急死されたのだけれども、
第一報は「りんごを喉に詰まらせて急死」だったのだ。
実際は、
仕事を終えて帰宅した大瀧さんのために、
奥様がりんごの皮をむいていたら、
ママありがとう と大きな声がして、ハッとしてふりかえったら、
椅子に座ったまま既に亡くなっていたそうだ。
なので、りんごを喉に詰まらせたのが死因ではないのだけれども、
突然訪れた最後の言葉は奥様への感謝だったというのが、
皮をむいたりんごの瑞々しさとセットになって、
なんか、もうね、キュンとなっちゃう。
私は食べると鼻の頭に汗をかくような、
きゅんと甘酸っぱいりんごが好きだからというのもあるけどね。
思い出は甘酸っぱいなんて言ったりするし、
甘酸っぱさはいろいろ思いださせる何かがあるのかもしれない。
しかし、大瀧さん、最後までなんて格好いいんだろう。

私の好きな大瀧さんのエピソードは、「君は天然色」の誕生秘話。
名盤「ロングバケーション」は盟友・松本隆さんが作詞を手掛けているのだが、
リリース直前に松本さんの妹さんが若くして亡くなってしまう。
妹さんは生まれつき病弱で、
松本さんは妹の分のランドセルも背負って小学校へ通ったという。
そんな妹思いだった松本さんは、妹さんを失ったショックで、
街の景色がモノクロ写真のように見えたという。
もう詩は書けない。他の誰かを探してくれと申し出た松本さんに、
大瀧さんは「君の詩じゃないと駄目なんだ。半年でも一年でも待ってるから」と言って、
レコーディングもリリースも延期して、何も言わず待ってくれたそうだ。
アルバムのオープニングを飾る「君は天然色」は、
どうしようもないくらいキラキラしてカラフルな極上のポップソングだ。
この曲が悲しいくらいに明るくてまぶしい理由は、
松本さんの失意から再生への道のりと、
大瀧さんの祈りや友情がベースカラーになっているからだろう。
いつまでも瑞々しくて甘酸っぱい気持ちになる歌。やっぱり名曲。
(そういえば、大瀧さんは岩手のお生まれだった。岩手もりんごの名産地なのよ)

「君は天然色」 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

くちびるつんと尖らせて
何かたくらむ表情は
別れの気配をポケットに匿していたから

机の端のポラロイド
写真に話しかけてたら
過ぎ去った過去(とき)しゃくだけど今より眩しい

想い出はモノクローム 色を点(つ)けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
美(うるわ)しの Color Girl

夜明けまで長電話して 受話器持つ手がしびれたね
耳もとに触れたささやきは 今も忘れない

想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
美しの Color Girl

開いた雑誌(ほん)を顔に乗せ
一人うとうと眠るのさ
今夢まくらに 君と会うトキメキを願う

渚を滑るディンギーで
手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で 空を染めてくれ

想い出はモノクローム 色を点けてくれ
もう一度そばに来て はなやいで
美しの Color Girl

[Official] 大滝詠一「君は天然色」Music Video (40th Anniversary Version) – YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=L-hyY-1luHs

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