著者がこのエッセイを書いたのは49歳、と最近になって知った。
サピエ(視覚障害者音声図書)で読み返す。
私がこの本をはじめて読んだのは、22か23歳、
来年には当時の著者と同じ齢になる。
書かれた60年前のアメリカは大量消費社会で、
著者は妻として母として、都会で煩雑な毎日を送っていた。
ちなみに夫君は、あのリンドバーグ。
著者も名パイロットだった。
家族と離れてひとり、小さな島のヤドカリみたいな家での休暇の日々を綴る。
ほとんど何も置かれていない家に、
その中を風と日光と松の木の香りが通り抜ける。
ここで暮らすのに必要な物はあまりに少ないと気づき、
浜辺で拾った貝殻たちと対話しながら、
枯れていた心の泉が、いつしか充たされていく。
女には一人の時間が必要なのだ、と。
自分の内部に目を向ける時間が、である。
同年代に比べて、自分の時間が多い私だけれども、
気がつくとネットやなにかしらで、せっかくの時間から気を散らしていた。
若い頃に読んで気がつかなかったのだが、
こんなに、ミニマムな暮らしを考える話だったなんて。
昔は詩的な描写と重厚な文章を観賞していただけだったのかな。
いま読むと、自分も浜辺に佇んでいるかのように生々しく感じる。
ある種の本は、自分の内面に目を向けることを助ける。
これはそんな本だ。
*「海からの贈物」
アン・モロウ・リンドバーグ
吉田健一・訳
新潮文庫