10年くらい前になるだろうか、
友人と冬キャンプをした時のこと。
朝テントから出たらうっすらと雪が積もっていて、
遠く近くに小さな足跡が続いていた。
これは野うさぎかな。こっちはイタチかタヌキ?
こいつは鹿で、夜に目がピカと光ったアイツかな?
夜の小さな動物たちの往来を思い浮かべて
「おとぎ話みたいだ」と思ったものだ。
足跡というのはじつに多くの情報を残してくれるものだという。
その動物の種類やサイズはもちろん、何時間・何日前のものなのか、
そこでどんな仕草をしたのか、どんな状況だったのかが記録される。
次にどんな行動をするのか予測ができたり、
性格や心理状態までも読み取れるそう。
神秘的だけれども、オカルトではなく、観察の果ての技術なのだ。
600人もの行方不明者や遭難者をを見つけだし、
伝説のトラッカー(追跡者)と称される著者は、
ネイティウアメリカンのアパッチ族のグランドファーザー(長老)で、その名も
ストーキングウルフからトラッキングを教わっていた。
副題の「サバイバル」は、古来から伝わる自然との調和の道も刺す。
トラッキング(実際に追うこと。心で追うことも)は狩りのためだけではなく、
自然と一体化するための知恵と技術を身に着ける修行だという。
足跡のたどり着いた先に動物がいても、
その動物に気づかれない為に自分が自然とひとつになっていなくてはならない。
この本はそんなトラッキングの技術を長老から授かる
トムの少年時代の素晴らしい体験と、
伝説のトラッカーとして名を馳せる道のりを綴ったものである。
自然や動物、精霊の神秘に触れていくトムの姿は、
「こんな体験を若い頃にしたかったなあ」と
私はちょっとくやしいような羨ましい気持ちになる。
足跡をたどった先にいたのは「自分」だったのです。
そんな風にトムが語る最終章は心を打つ。
35歳で5歳児の知能を持つ知的障害の男性が
深い森で迷子になり、トムが追跡する話。
ああ、ラストで私は大泣きしてしまったのでした。
*「トラッカー インディアンの聖なるサバイバル術」
トム・ブラウン・ジュニア
2001年/徳間書店