カテゴリー別アーカイブ: アイメイト(盲導犬)と暮らす

眼鏡

眼鏡をかけなくなって、今日で四年になる。
その何年か前には目が不自由になっていたので、
愛用の眼鏡達は、視力のための道具ではなくなっていたのだけれど、
物や障害物から目や顔をガードするためにも、そのまま眼鏡はかけていたのだ。

ちなみに、視覚障害の人がサングラスや眼鏡をかける理由は様々ある。
光の調節機能の関係や、眼をぶつける保護、眼球の見た目の変化の配慮、
花粉や塵や紫外線のガード、もちろんファッションとしても。

大村崑か、おぎやはぎ並みに眼鏡が似合っていた私は、
趣味と実用兼ねて、若い頃から眼鏡に凝っていた。
そんな愛する眼鏡をかけなくなったきっかけは、父の葬儀だ。
父との何らかの解放、というわけでもない。
眼鏡=コンプレックスというのも早計だ。
葬儀会館に寝泊まりすることになったので、眼鏡は家に置いていくことにした。
だって、枕元の眼鏡を踏んづけたりしたらワヤやがね!
それ以来だ、ピタリと眼鏡をかけなくなったのは。

いや、伏線はあった。
父の亡くなる前の年からサンダーと歩くようになり、
物や人にぶつかることがなくなった。
それで、目の見えない生活に慣れて、やがて自信がついてきて、
目が見えないってことも、ようやく受け入れることができた頃。
自信は、自分の受容を助けてくれるね。
今日は、父の四回目の命日だ。

何年かぶりに会った人に、
あれ? なんか雰囲気が違わくない? 
ちょっと変わった?と言われることがある。
やっぱり、眼鏡は顔の一部だったかしらん。

物語はここから始まった/2017年はアイメイト60周年

アイメイト協会を卒業したペアは 1,330組。(2017年7月15日現在)
日本に10ある盲導犬協会の中で最も多く、
海外でも1000組をこえた団体は僅かだという。

アイメイトの物語は、今から60年前に、
絶望の淵にいた二人の男と、垂れ耳の冴えない一頭のシェパード犬から始まった。
それは、日本の盲導犬の歴史の始まりでもあるのでした。

・NHK「プロジェクトX」 2002年2月12日放映
「ゆけ チャンピイ 奇跡の犬」 ~日本初の盲導犬・愛の物語~ – YouTube

エスカレーターの「暗黙のルール」を考える

エスカレーターは真ん中に立つのが、設計上よろしいそうだけれど、
日本では東と西で左右の違いはあれど、片側に寄って、
空いた側は急ぐ人の「追い越し車線」にする暗黙のルールがある。

しかし、この暗黙のルールに困ってしまう人たちがいる。
たとえば、お子さんやお年より、怪我や障害をお持ちの方と一緒の方は、
手をつないだりして、並んで安全に乗りたい。
白杖を利用する視覚障害者や、松葉杖や歩行杖を支えにする方は、
杖をを持っていない側の手でベルトを掴みたい。
バランス機能の関係で、安定する側が決まっている方もいれば、
どちらかの手でしかベルトに掴めない方もいる。

しかし、「迷惑をかけるから」と、暗黙のルールを気にして、
周りに合わせて乗っている人も人知れずいるのだ。
そんなムードを変えていこうよと、
「立ち止まって乗りたい人もいる。立ち止まる勇気をひろげよう」と
東京都理学療法士協会が呼びかけているそうだ。

さて、私の場合はどうかというと、
サンダーと並んでエスカレーターに立ち止まって乗る。
後ろの方は、左右どちらからでも追い越しができないのだけれども、
「どいて下さい」と言われたことも、無理やり通って行った人に遭遇したことも、
そういえば…、ないんだなぁ。ない。なかった。
後ろの知らない人と犬談義になったことなら、結構あるんだけど。

これは名古屋の良いところ、東京ほど過密じゃないというのもあるし、
サンダーが相当に目だって分かりやすいのもあるだろう。

その人の安全なエスカレーターの乗り方が、
ごく普通に自然にできる街になりますように。
そう願いながら、私とサンダーはエスカレーターに「堂々と」乗るのでした。

きょうは寄ってく?

アイメイトの笑い話。

アイメイト利用者が奥さんと散歩をしていたら、
パートナーのアイメイトが、赤ちょうちんの店の暖簾の前で止まった。
しばらく歩くと、また赤ちょうちんの店の暖簾の前で止まる。
それを何軒か繰り返して、
奥さんに居酒屋通いがバレてしまったとさ。(実話)

…あるんだな、これ。
馴染みの店じゃなくても、一度しか入ったことのない店なのに犬は覚えている。

今日は入るつもりのないスタバなのに、
サンダーがドアの前で「寄ってく?」と止まるのだ。
私は「教えてくれてありがと」とサンダーをほめて、
「また今度ね」と言い聞かせてスルーするのだけれども、
いつぞやはバリスタさんが「どうぞ!」とドアを開けてくれたものだから、
私は「しょうがないわねー」と、お店に(喜んで)吸い込まれていったのでした。

バスはバスでも/いつもの仕事をしていたサンダー

昨日は視覚障害の会のバス旅行だった。
私は会に入ったばかりで初めての参加である。
視覚障害者、ガイドヘルプさんボランティアさんで、今回は20人。
大きな観光バスタイプの、名古屋市の福祉バスを利用しての旅である。

行先は愛知県は渥美半島。
野菜や果物をたーくさん買って(新鮮で安い!)、楽しい旅だった。

そして発見もあった。
サンダーゆったり過ごしてねと、一番後ろの席にしてくださったのだけれど、
その席までサンダーがスンナリ行かないのだ。
ゴーと指示してもモタモタ。
トイレ休憩や観光地で降りる時にも、バスの通路の途中で動かない。
こりゃどうしたと笑われて、
私も何でだろ?と思ってサンダーを叱ったのだった。

帰ってから気がついた。
サンダーは路線バスに乗る時の仕事をしていただけなのだ。
路線バスに乗り込むとまず、私たちは空いている座席を探して座る。
今回は大きなバスに20人なので空席だらけ、
空席をひとつひとつ、チェアデス!と教えてくれていたのか…。
サンダーとしたら、いつもなら「グッド!」とほめられて座ってくれるのに
今日はナンデ叱られるの?である。

そして路線バスでは、私たちは後方の降り口用の扉を探してバスを降りる。
昨日の福祉バスには、どうも後方に車椅子のリフトスペースがあったようなのだ。
これをいつものように降り口と思って
サンダーはココデス!と教えてくれてもいたのだろう。

…ごめんねサンダー。
バスはバスでも、
路線バスと観光バス、何かと違うことをワタシ意識していなかったよ。
それから観光バス、サンダーと初めてだったんだってことに気がついたのでした
(また行こうね!)

もし子カラスが路上にいたら

カラスには因縁がある。
いや、因縁というほどでもないけれど、
キャンプしてる時に、フランスパンを一本もっていかれたことがあった。

そして今日、サンダーと歩いていたらカラスに襲われたのだけれども、
これはカラスの勝手じゃなくて、カラスの事情がある。
巣から落ちたのか、まだ飛ぶ訓練中なのか、
どうも子カラスが路上にいたようだ。
親カラスが近づいてくる私たちを威嚇して、
三回、びゅうと私の頭をかすめていった。

サンダーは路上に居座った鳩を迂回して歩いたこともあるから、
あなた方のお子さんは大丈夫です
そう思いながら通り抜けたのだけれども、
サンダーは「どうってことないです」と、いつものサンダーだったのでした。

休日だなぁ

サンダーと道を歩いていて、
「休日だなぁ」と感じるのは、
「パパと子ども」率がぐっと上がること。

すれ違うときに、
おっきいワンちゃんだー!
うん、おっきいワンちゃんだねーなんて聞こえてくる。
だいぶ遠ざかった後に、
おっきいワンちゃーん ばいばーい!とかわいい声がした。
私はサンダーの代わりに小さくバイバイをする。

それから、「パパと犬」率も上がる。
ワンワンワン
こらこらこら
と、リードをひっぱって遠ざかる気配がするのでした。

お手をどうぞ

アイメイトのサンダーと歩いていたら、工事現場に差し掛かった。
「お手をどうぞ!」と、警備のオジサンが言った。

…これは新しい。
誘導の基本は「肘に掴まらせてもらう」なのだけれど、
「お手をどうぞ」の言葉に、私は咄嗟に反応したみたい。

そう、舞踏会のような、
高く上に向けた掌に、指をのせる、
ダンスフロアの中央に向かうポーズのアレである。
私は、軍手のオジサンのエスコートで工事現場を通り抜け、
お礼を言って先に進む。

しばらく行ったらサンダーが止まって動かない。
どうやら、新たな工事現場らしい。
こちらには警備の誘導の人がいないようだ。
さて、どうしようかなーと思っていたら、
路の向こうから人が駆け寄ってきた。

「あの、お手をどうぞ…」
若いお嬢さんである。
またも舞踏会のポーズになっちゃって、
今度は、お嬢さんのエスコートで工事現場を通り抜けたのでした。

道行く人との「やりとり」は、
まるでダンスのようね。

そのときめきは、ときめきなのか

こんなワードローブ、こんな毎日にしたくて片付けは続いている。
無雑作にパッと手にした服を着ても様になって、
そのまま出かけることができて、心地よくその日を穏やかに過ごす。

なぜなら、その反対だったからねー。
毎日なにを着るのか悩んで、そのわりに気に入らなくて、
なんだか落ち着かない一日を過ごすこともあった。

まず、選ぶのに悩むほど服をたくさん持っていた。
暗闇でパッと手にした服を着たら、とんでもないことになる確率が高かった。
なぜなら私は柄物が好きだったのだ。シャツはチェックかボーダー。
ボトムに柄パンツもあったし、スニーカーは珍しい色柄をコレクションしていた。

目が悪くなって、あるグッズを買おうか考えたことがあった。
便利グッズに色を音声でおしえてくれるマシンがある。
服に当てると色を判別して「青デス」なんておしゃべりしてくれるのだけど、
チェック柄のシャツなら、当てるところによって青だったり白だったりする。

そうまでして柄物を着たい? 心の声はノー。
そもそも洋服を「ときめく」で選ぶと柄物ばかりになっていたのだけれども
そのときめきは、ときめきだったのか今にして思うと少々あやしい。
単純に柄物って、目に入る情報量や刺激が多いからね、
その刺激によるドキドキが「ときめいてる!→好き」になっていたような。

そんなわけで、柄物は厳選して少なくなり、服の量も減った。
すると「おー!いいじゃん!」なのでした。(これが、ときめきかも!)

はじめて見たものですから…

アイメイトのサンダーと一緒にいると、見知らぬ人からよく声をかけられる。
「はじめて見たものですから、話をきいてもいいですか?」
そういう人はたいてい、こちらの安全をみはからって声をかけてくれる。

今の時期くらいだったか、それとも桜の頃だったか、
名古屋駅の地下にあるショップで、パンツのお直しをしてもらっている間に、
北海道からやってきたという、旅の途中のナイスミドルに声をかけられた。
本土はあたたかいので、着てきた服が暑くてね、
たまらず妻と店に飛び込んだんですよ、と。

そして、こうおっしゃる。
「あの恥ずかしながら、私はじめて盲導犬を使っている人を見たのです。
会社の若い者に話をしてやりたいので、っちょっと聞いてもいいですか?」
こんな申し出はうれしい。互いの待ち時間に話をした。
この人は会社の若い人思いなんだなぁ。やりとりをして伝わってくる。
着替えを済ませた奥さんとも話をして、「それじゃあ」と去っていったのでした。

そして、のんびりムードの休日の公園でのこと。
母と散歩をしていたら、見知らぬ人から声をかけられた。
「え?! 盲導犬?ほんと? えええ!
あのさ、言うこときくんだってね? 噛まないってほんとかい?」
はじめて盲導犬をご覧になりました?と私が聞くと「ウン。」
うわああ、俺、はじめて見たものだからさぁぁ…。
ドーナツを肴に一杯やってるオジサンが、目をまんまるにしていたそうだ(母談)。
そりゃ驚いちゃうよねぇ~。(かわいいね)