照れ屋さんだもの

「お父さんがやっと出てきてくれたの」と母が言った。
昨年の初冬に、父の三回忌を迎えた我が家。
…えーっと、お母さん。
ユーレイじゃなくて夢に出てきたんだよね?
夢の中の父は、にこにこ笑っていたそうだ。

私はというと、三回は父の夢を見ているだろうか。
教室のようなところで、ふりむけば離れた列の机に父が座っていた。
ひろげた教科書のようなものに目を落として、口を動かしていた。
ふと私を見て照れ笑い。
…変わってないのぅー。

もしかして、もっと父の夢を見ているかもしれないし、
実のところ、ちょこちょこ父と会っているかのような気さえする。

父は駆け足で旅立っていったのだけれど、
私たち姉妹は、事前に最期のお別れができた。
お別れの場面が苦手な私だったけれど、
最後になった父とのやりとりは、もう上出来としか言いようがない。
しかし母は、最期のありがとうが間に合わなかったとしばらくは悔いていた。
それも照れ屋の父らしいんだよなぁ。

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