胸に一輪

近所の梅の花が咲きはじめた。
三部咲きくらいかしらね、と母は言う。
いつからか私は、桜より梅が好きになった。

たしかリルケの作品だったと思うのだけれども、
パリの公園、盲目の物売りの胸ポケットには一輪の花があって、
彼はその花の美しさは見えなくとも、自分以外の人のために胸に花を…、
というようなシーンがあったような。

私はいま思うのだけど、
それはね、彼は匂いを楽しんでいたからじゃないかしら?
ずいぶん昔に読んだので、その花がバラだったか何だったか忘れてしまった。

梅の花の匂いは、ほんと身体が緩むなぁ。
そして、身体が強張っていたんだと気がつくのでした。

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