やっぱり、ないわねぇ。
今朝、窓から外を眺めて母は言った。
家のリビングから緑の並木道が見える。
母によると、新緑でもこもこした林の中から、
二本の大きなヒマラヤ杉が、ひときわ高くそびえていたそうだ。
いま風が強いよ、ヒマラヤ杉があんなに揺れてる、と母はよく教えてくれた。
私も真下を通る時、風に吹かれて落ちてきた朝露を浴びたものだ。
「やっぱり、ないわね」は、この二つのトンガリのことだ。
昨日の夕方に母とサンダーと散歩に行った時には、
あの二本の大きなヒマラヤ杉が、二つの大きな切り株になっていた。
そういえば昼下がりに、チェーンソーらしき音がしていたっけ。
以前に住んでいた家の裏の空き地にも、大きなヒマラヤ杉が並んでいて、
そこだけカナダかアラスカみたいだった。
(カナダにもアラスカにも行ったことはないけれどね)
ヒマラヤ杉を背景にジャングルみたいに茂った草の中を、
我が家の猫が歩いたり、かくれんぼしたり、昼寝をしていた。
裏の空き地は集会所の駐車場になり、トンガリもジャングルも消えた。
また、しばらくは見慣れない景色に馴染めないかなぁ。
でも心の中にずっとそびえているのは確かなことだ。