「’89」橋本 治・著

私の住む集合住宅のエレベーターは今年新しくなって、
液晶モニターに「今日は何の日」と表示されるのだが、
きょう買い物に出かけた母は、
〔今日は「虫の日」だったよ~〕と教えてくれて、
あ、6月4日だもんね!と笑いあったのだが、
今日で天安門事件から32年になると気づき、
虫の日とか表示してんじゃねーよと思う。

天安門事件の時、私は専門学校を卒業し社会人になったばかりで、
同世代の中国の学生たちが犠牲になったことに胸を痛めた。
あの、戦車の前に、手を広げて立ちはだかった男性はどうなったのだろう。
たしか、戦車の中にいたのは、若い軍人達だったはず。
32年たったけど、思い出すと胸がキュッとなる。
12年前に天安門広場に行ったことがあった。
観光客がいっぱいで、平和でのどかな光景だったので、
すっかり事件のことは忘れていたけど。
案内してくれた人に「ここの路面はすごく頑強にできている」と聞いて、
あ、戦車…と思い出して、小さく手を合わせて祈った。

前置きが長くなったけど、
天安門事件があった1989年は、
世界も日本もいろいろあったとんでもない年で、
そんな一年を総括した橋本治の時事コラム集「89」は、
転載・橋本治の数ある名著のひとつ。
初版本はタウンページくらい分厚い本で、
装丁のデザインはシンプルかつセンスよく、中の印字が赤だった。
コロナで世界が揺れる今、橋本治が生きていたら何と書くのか。

内容(「BOOK」データベースより)
昭和が終わり、天安門事件が起こり、リクルート事件がピークを迎え、
美空ひばりが死亡し、東西の壁が崩壊し、宮崎勤事件が発覚した一九八九年。
さまざまな時代の亀裂を見せたこのとんでもない一年に真向からぶつかり、
体を張ってラジカルに問いかけ、問題の中心をひっぱり出す。
“いま”という歴史をどう読み解くかを
すべての人に示してくれる恐るべき89年の総括。 

・「’89」
橋本 治/河出書房
現在は上下巻の河出文庫

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