アートの人

写真家だった親友の命日。
毎年この日は、朝からお花や果物を買いに行き、家で静かに偲んでいるのだけど、雨がひどくて買いに出るのはあきらめて、花屋さんに花を配達してもらうことにする。
カサブランカを注文したら時期外れとのことで、カサブランカに似ているシベリアという大きな白い百合の花をが届いた。

親友は大きな花が好みだった。大きな花や枝つきの花ををドサッと無造作に大きい花瓶や鉢に放り込んでいた。バァーっと大胆にやっているけど緻密に計算されているのだ。達人級の腕前の料理もお菓子作りも同じで、作業の手際の良さや味付けのプロセスなんかまるでアートのよう。素材の良さを見つけて活かすセンスは抜群だった。

親友は自慢する人ではなかったので知らなかった人もいるかもしれないけど、彼女の撮影したポートレートを見た橋本治がとてもほめていたそうだ。あの橋本治がである。私は若いころから橋本治のファンで、橋本治がどれだけ美意識にこだわりがあるかは知っていた。絶対にお世辞でほめたりなんかはしない人。

彼女の写真集は画家の岡田嘉夫さんのデザインしたシャツをまとったナイスなシニアメンズ約100名を撮影したものなんだけど、岡田さんと橋本治は共著多数の40年来の親友の間柄で、当初は写真集(エエマイシャツを着た男達)の企画に反対していたという。理由は80を過ぎた岡田さんの体力や健康が心配だったから。「そんなことしたら岡田さんが死んでしまいます」と。しかし、写真集のパイロットモデルのような彼女の作品を見た橋本治が、「このカメラマンの人すごくいいじゃない!この写真を僕の仕事場に置いていったらいい。いろんな編集者の人が来るから見てもらえる」と。
それから間もなく橋本治は入院して還らぬ人となってしまった。自分を心配してくれてた年下の橋本治が先に逝ってしまったなんて、岡田さんはショックだったろう。橋本治の訃報を私から聞いた彼女が岡田さんに電話したらぼろぼろ泣いていらしたそうだ。
岡田さんは橋本治に写真集のモデルのオファーも帯文依頼もされていなかったようだった。
作家でイラストレーターの橋本治は天才ニッターでもあるし、橋本治といったら専属フォトグラファーの おおくぼひさこ さんがいる。あえてオファーしないという敬意の表し方もあるのだと思った。2019年に橋本治と私の親友が、2021年に岡田さんは光の世界へと旅立った。

私は勝手にだけど、撮影するしないは置いといて、橋本治と私の親友が直接会えたらいいのにな、と思っていた。私は橋本治に会ったことはないけど、きっと二人は話が合うはずだ。
もしかしたら、あちらの世界で彼女は岡田さんの紹介で橋本治と会ったかもしれない。あー、ずるいや。すこし笑った後に涙がこぼれた。

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